業者を選べないのではなく、払い方が変わるだけ
「うちは介護保険の指定業者だから」と言われて、その場で決めてしまう人がいます。ところが介護保険の住宅改修には、福祉用具貸与のような指定事業者制度がありません。市区町村と合意書を結んでいない業者に頼んでも、工事そのものは保険の対象になります。変わるのは、お金の払い方だけです。自治体が公表している記載で確かめます。
住宅改修に指定事業者制度はない
介護保険のサービスの多くは、都道府県や市区町村の指定を受けた事業者しか提供できません。訪問介護も、通所介護も、福祉用具貸与もそうです。指定を受けていない事業者を使うと、保険は使えません。
住宅改修だけは、この形になっていません。工事をするのは工務店・リフォーム会社・大工であって、介護保険の事業者ではないからです。制度は「工事の内容」と「事前の申請」を見ていて、誰が施工したかを要件にしていません。
三鷹市は申請の流れの中でこう書いています。
できる限り複数の住宅改修事業者から見積もりを取り、費用を検討してください。
指定業者が決まっているなら、複数から見積もりを取れとは書けません。選べることが前提になっています。
合意書とは何か
では「うちは市と契約している」という説明は何なのか。受領委任払いの合意書のことです。
住宅改修費の受け取り方には2つあります。
償還払いと受領委任払い
| 工事のときに払う額 | 保険給付分の受け取り | |
|---|---|---|
| 償還払い(原則) | 工事費の全額 | あとから本人の口座に振り込まれる |
| 受領委任払い | 1割・2割・3割の自己負担分だけ | 市区町村から業者へ直接支払われる |
受領委任払いは、本人が受け取る権利を業者に委任する形。この委任を受けられるのは、市区町村と合意書を結んだ業者だけです。
三鷹市の記載です。
三鷹市と合意書を締結している事業者に住宅改修を依頼した場合に利用できます。
つまり合意書は、工事をする資格ではなく、お金を代わりに受け取る資格です。
合意書がある場合とない場合
ここがいちばん誤解されるところなので、三鷹市の一文をそのまま引きます。
合意書を締結していない住宅改修事業者による改修は、償還払いによる申請になります。
「対象になりません」ではなく「償還払いになります」。工事は保険の対象のままです。
合意書の有無で何が変わるか
| 合意書あり | 合意書なし | |
|---|---|---|
| 工事が保険の対象になるか | なる | なる |
| 事前申請が要るか | 要る | 要る |
| 理由書が要るか | 要る | 要る |
| 工事のときに払う額 | 1〜3割 | 全額(あとで戻る) |
| 給付分の受け取り | 市区町村→業者 | 市区町村→本人 |
変わるのは最後の2行だけです。合意書の有無は、工事の可否を左右しません。ただし合意書の制度そのものを設けていない市区町村もあります。
なぜ「指定業者」と言われるのか
業者に悪意がある場合ばかりではありません。合意書を結んでいる業者にとっては、それが「市と手続きができる」という意味の言葉として定着していることがあります。
ただ、聞いた側は「他の業者では保険が使えない」と受け取ります。その差が、見積もりを1社しか取らない理由になってしまう。
この誤解から起きること
1社しか見積もりを取らない
指定業者だと言われると、他を探す理由が消えます。住宅改修は20万円という上限の中でやりくりする工事なので、単価の差がそのまま工事の量に効きます。
付き合いのある工務店に頼めなくなる
長年やってもらっている工務店が合意書を結んでいないだけで、諦めてしまう。償還払いなら頼めます。
「今日決めてくれれば」と急かされる
事前申請が必要な以上、その日に工事は始まりません。急ぐ理由が制度の側にはありません。
自治体は複数見積もりを勧めている
三鷹市の申請の流れは、ケアマネジャーへの相談と同じ段落に見積もりのことを書いています。
住宅改修前に必ずケアマネジャー(居宅介護支援専門員)へ相談し、「住宅改修が必要な理由書」の作成を依頼してください。できる限り複数の住宅改修事業者から見積もりを取り、費用を検討してください。
理由書を頼む相手と、工事を頼む相手は別です。ケアマネジャーは理由書を書く人であって、業者を決める人ではありません。「ケアマネさんが紹介してくれた業者だから」は、見積もりを1社にする理由になりません。
どう選ぶか
見積もりを取るときの順序
- 先にケアマネジャーに相談する工事の内容が決まらないと、見積もりの前提がそろいません。
- 同じ図面・同じ条件で複数社に出す条件が違うと金額を比べられません。手すりの長さ、段差の高さ、材料を紙に書いて渡します。
- 受領委任払いを使いたいかを決める使いたいなら、市区町村の合意書事業者の一覧から選びます。一覧は市区町村のサイトで公開されていることが多いです。
- 使わない・使えないなら償還払いで進める工事費を一度立て替えることになります。立て替えが難しいかどうかで決めてください。
- 見積書は事前申請にそのまま使う申請の添付書類になります。内訳が細かいほど、審査で止まりにくくなります。
気をつける場面
こう言われたら、いったん止める
「うちでないと介護保険が使えません」
住宅改修に指定事業者制度はありません。受領委任払いの合意書の話と、工事ができるかどうかの話が混ざっています。市区町村の窓口に「この業者でも住宅改修費は出ますか」と聞けば答えが出ます。
「申請はこちらでやるので任せてください」
業者が書類を作ること自体は普通です。ただし申請するのは被保険者本人で、承認通知も本人宛に届きます。通知が来ないまま工事が終わっていたら、事前申請がされていない可能性があります。
「先に工事して、あとで申請すれば大丈夫」
泉佐野市は「承認を受ける前に行った改修は保険給付対象となりません」と書いています。順序が逆になると出ません。→ 工事のあとに気づいたとき
「20万円まるまる使えます」
江東区は、負担割合1割の人の支給限度額を18万円、2割で16万円、3割で14万円と書いています。20万円は工事費の上限であって、戻ってくる額ではありません。
工事の内容と費用を、複数の見積もりで比べる
手すりや段差の工事は、内容によって金額が変わります。相談・見積もりは無料です。
- k
- a
- i
- g
- o
確認の順序
業者を決める前に確かめること
- ケアマネジャーに相談して、工事の内容を決めた
- 同じ条件で複数社から見積もりを取った
- 受領委任払いを使うかどうかを決めた
- 使うなら、市区町村の合意書事業者の一覧で確認した
- 使わないなら、工事費を一度立て替えられるかを確認した
- 工事の前に事前申請を出した
- 承認通知が本人宛に届いたことを確認した
→ 先に出すお金を10分の1にする払い方/工事のあとに気づいたとき/理由書は誰が書くのか/20万円は何回に分けられるか/借りている家で工事するとき/保険で頼めないこと一覧
確認に使った一次情報
- 介護保険法 第200条(時効)e-Gov 法令検索https://laws.e-gov.go.jp/law/409AC0000000123
- 江東区「介護保険住宅改修費の支給」https://www.city.koto.lg.jp/212106/fukushi/kaigohoken/kyufu/6537.html
- 泉佐野市「介護保険住宅改修費の支給について」https://www.city.izumisano.lg.jp/kakuka/kenkou/kaigo/menu/11574.html
- 三鷹市「介護保険(介護予防)住宅改修費の支給」https://www.city.mitaka.lg.jp/c_service/014/014875.html
よくある疑問
知り合いの大工に頼んでも住宅改修費は出ますか。
自分で工事してもよいですか。
受領委任払いの事業者一覧はどこにありますか。
業者に見積もりを断られました。
見積もりを何社取ればよいですか。
合意書を結んでいる業者のほうが安心ですか。
介護保険で頼めないことの記事一覧
一次情報の確認先
本ページの前提となる制度・統計は、以下の公的機関等の公表情報で確認できます。最新の内容は必ず各機関の公式ページでご確認ください。