同じ「車いす」が、2つの制度にある。先に決めるのは制度
退院が近づくと「車いすを用意してください」と言われます。ところが調べると、介護保険で借りる話と、障害福祉の補装具で作る話が両方出てきます。どちらを選ぶかで、費用も、かかる日数も、届くものも変わります。そして退院日は待ってくれません。ここを先に決めてください。
なぜ2つあるのか
介護保険の福祉用具貸与にも、障害者総合支援法の補装具費支給にも、「車いす」「歩行器」「歩行補助つえ」という同じ名前の種目があります。制度が別々に作られたからです。
2つの制度の性格の違い
| 介護保険の福祉用具貸与 | 障害福祉の補装具費支給 | |
|---|---|---|
| 何をするか | 既製品を借りる(レンタル) | 本人に合わせて作る・買う(購入が基本) |
| 前提 | 要介護認定を受けていること | 身体障害者手帳などにもとづく判定 |
| 決める人 | ケアマネジャーと福祉用具専門相談員 | 市町村(身体障害者更生相談所等の判定・意見にもとづく) |
| 合わなかったら | 交換できる | 作り直しは容易ではない |
| 体が変わったら | 変えられる | 耐用年数の考え方があり、すぐには作り直せない |
借りるか、作るか。ここが本質的な違いです。状態が変わる見込みがあるなら借りる、体に合わせないと使えないなら作る、という判断になります。
原則は介護保険が優先
両方に当たる場合、介護保険が優先されます。厚生労働省の通知(平成12年12月25日 障企第64号「介護保険による福祉用具貸与と補装具給付制度との適用関係について」)に、65歳以上の身体障害者については「介護保険から貸与を受けることが基本となるので、補装具としては、原則として給付しない」と示されています。
つまり、要介護認定を受けられる状態であれば、まず介護保険のレンタルを検討するのが順序です。既製品で足りるなら、こちらのほうが早く、合わなければ交換もできます。
例外はオーダーメイドが要るとき
ただし通知には続きがあります。既製品では対応できない場合の例外が明記されています。
補装具として支給できる場合(通知の記述より)
| 内容 | |
|---|---|
| 判断の基準 | 身体の状況等からみて明らかに既製品では対応できず、オーダーメイド等により個別に製作する必要があると判断される者である場合 |
| 手続き | 補装具給付制度において、更生相談所の判定等にもとづき、その要否の検討を行って差し支えない |
| 必要になるもの | 医師の意見書や身体障害者更生相談所の判定 |
「既製品では座れない」「体幹の変形があって姿勢が保てない」といった状態が、ここに当たり得ます。まず主治医とリハビリの担当者に、既製品で対応できるかを聞いてください。
どちらを選ぶかの考え方
退院後しばらく使うが、リハビリで歩けるようになる見込みがある
体幹の変形や麻痺があり、既製品では姿勢が保てない
屋内は歩けるが、外出時だけ必要
要介護認定をまだ受けていない
要介護1以下だと車いすが借りられない
ここが最もつまずくところです。要支援1・2、要介護1のいわゆる軽度者は、車いすの貸与が原則として対象外です。「認定は下りたのに車いすが借りられない」という行き違いは、ここから起きます。
ただし例外給付があります。厚生労働省の資料では、次のいずれかに該当する場合に対象になり得るとされています。
軽度者の車いす貸与の例外給付
| 区分 | 内容 |
|---|---|
| 対象となる状態 | 日常的に歩行が困難な者/日常生活範囲における移動の支援が特に必要と認められる者 |
| 医学的判断による場合 | ①状態が変動しやすく、日によって又は時間帯によって対象者に該当する ②状態が急速に悪化し、短期間のうちに該当することが確実に見込まれる ③身体への重大な危険性又は症状の重篤化の回避が医学的に必要と判断される |
| 確認の方法 | 要介護認定における基本調査の結果(歩行の項目が「できない」に該当すること)、医師の所見、ケアマネジメントの判断にもとづいて市町村が確認する |
②の「短期間のうちに該当することが確実に見込まれる」は見落とされがちです。いまは歩けていても、進行が見込まれる状態なら検討の対象になり得ます。主治医の所見が要になります。
この例外を通すには、医師の所見とケアマネジャーの判断が要ります。家族が「必要だ」と言うだけでは通りません。退院前カンファレンスの場で、主治医・リハビリ担当・ケアマネジャーが揃っているうちに話を出してください。退院後に集め直すのは大変です。
費用の違い
負担のしくみ
| 介護保険の貸与 | 補装具費支給 | |
|---|---|---|
| 負担の形 | 月々のレンタル料の自己負担分(負担割合に応じて) | 原則1割の定率負担 |
| 上限 | 区分支給限度基準額の中で、他のサービスと合算される | 負担上限月額37,200円(市町村民税課税世帯) |
| 非課税世帯・生活保護 | 負担割合の制度による | 0円 |
| 高所得の場合 | 負担割合が上がることがある | 障害者又はその配偶者のうち市町村民税所得割の最多納税者の納税額が46万円以上の場合は支給対象外 |
介護保険側で見落とされやすいのは「区分支給限度基準額の中で他のサービスと合算される」点です。車いすを借りた分だけ、訪問介護やデイサービスに使える枠が減ります。
つまり、「レンタルのほうが安い」とは限りません。限度額の枠を使い切っている場合、車いすの分を入れると他のサービスが削られます。ケアマネジャーに、枠の残りを数字で出してもらってください。
かかる日数の違い
退院までに間に合うか
| 介護保険の貸与 | 補装具費支給 | |
|---|---|---|
| 最初にすること | 要介護認定の申請(入院中に可能) | 身体障害者手帳の確認、医師の意見書 |
| 判定・審査 | 認定に時間がかかるが、暫定のケアプランで先に始められる場合がある | 更生相談所等の判定が入る |
| 現物が届くまで | 事業所に在庫があれば数日 | 採寸・製作が入るため、さらに時間がかかる |
| 退院に間に合わせやすさ | 比較的間に合わせやすい | 退院日が決まってからでは間に合わないことが多い |
補装具を検討するなら、退院日が決まる前に動いてください。「退院できます」と言われてからでは、判定と製作の時間が取れません。
退院までの決め方
この順で進める
- ① 入院中に要介護認定を申請する入院中でも申請できます。退院してからでは遅い。病院の医療相談室(MSW)に相談してください。
- ② 主治医とリハビリ担当に「既製品で足りるか」を聞くここで補装具の検討が要るかどうかが分かれます。ひとことで済む質問ですが、聞かないと出てきません。
- ③ 退院前カンファレンスに車いすの話を出す主治医・リハビリ・ケアマネジャー・家族が揃う場です。軽度者の例外給付が必要なら、ここで所見の話をしておきます。
- ④ 福祉用具専門相談員に使用場面を具体的に伝える屋内か屋外か、誰が押すか、段差はあるか、車に積むか。機種はここで決まります。
- ⑤ 自宅の動線を測る廊下の幅、トイレの入口、玄関の段差。借りてから入らないことに気づくのが、いちばん多い失敗です。
- ⑥ 限度額の残りを数字で確認する他のサービスと合算されます。枠が足りるかを先に見てください。
自宅で先に測っておく寸法
- 玄関の間口と上がりかまちの段差
- 廊下のいちばん狭いところの幅
- トイレの入口の幅と、中で向きを変えられるか
- 浴室の入口の幅と段差
- 寝室のベッドから出入口までの動線に、曲がり角がいくつあるか
- 車に積むなら、トランクの開口部と本人の乗り移り方法
→ 入院してすぐやること/退院後の生活/おむつや用具の費用が出る制度/在宅の重度の方への手当
退院直後の、制度で埋まらない部分
付き添いや家の片づけなど、保険では頼めない依頼に対応しています。相談・見積もりは無料です。
- 相談・見積もりは無料の場合があります
- 掲載内容は各社公式サイトの公表値です
- サービス内容は地域により異なります
よくある失敗
退院日が決まってから車いすを考える
補装具は判定と製作に時間がかかります。要介護認定にも日数が要ります。入院した時点で動き出すのが正解です。
要介護1だから借りられないと諦める
軽度者にも例外給付があります。医師の所見とケアマネジメントの判断で市町村が確認します。まず相談してください。
自宅の寸法を測らずに機種を決める
廊下やトイレの入口を通らない車いすが届くことがあります。借りる前に測ってください。
限度額の枠を確認しない
貸与は他のサービスと合算されます。車いすを入れた分、訪問介護が減ることがあります。
既製品で足りるかを医師に聞かない
どちらの制度を使うかは、ここで決まります。家族だけで判断すると、後戻りに時間がかかります。
よくある疑問
介護保険と補装具を両方使うことはできますか。
40歳から64歳の場合はどうなりますか。
身体障害者手帳がないと補装具は使えませんか。
入院中に要介護認定を申請できますか。
認定が下りる前に車いすを借りられますか。
レンタルと購入では、どちらが結局安いですか。
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